冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「陛下、なにをっ」

 先に声をあげたのはルディガーだった。ライラに至ってはあまりにも突拍子のない条件に声さえ出せない。しかし爆弾を落とした本人は何食わぬ顔だ。

「城の中とはいえ、外からの出入りがないわけではない。原則、彼女をひとりにはできないだろう。そうなると昼はともかく夜はどうする? ただの客人にお前らが仰々しくそばにいたら不自然だろ」

 王は立て板に水のごとく続けた。その表情はどこか面倒くさそうだ。

「彼女がフューリエンという事実は内々の……俺の信頼した人間だけに留め、極力伏せておきたい。結婚はいいカモフラージュになる、同じ部屋に置いておけるし、夜も心配ないだろ」

 そこで一息つき、王はまだ納得しきれていない男共に笑ってみせた。

「なに、所詮この国では結婚は紙切れ一枚のこと。神に誓うわけでもない。宣誓書に国王のサインがあれば夫婦として認められる。別れるときも同じだ」

 アルント王国では男女ともに十五で結婚が認められる。その際に教会で神に愛を誓い合う者は少なく、王の署名が入った宣誓書の方が大きな効力を持つ。

 それはこの国で神よりも王の方が人々の崇拝する象徴であり、絶対的な力の強さを物語っていた。

「どうだ、ライラ。すべては表向きの名ばかりの結婚だが、どちらもいい男だろ。お前に選ばせてやろうか?」

 玉座からおかしそうに問いかけられ、ライラは改めて両隣の男にそれぞれ目を向けた。

 鳶色の髪、表情や口調など和らかで聡明そうな雰囲気の男。一方、黒髪に眼差しは鋭く威圧感を放つ不愛想な男。

 どちらも王の言う通り、地位も容姿も申し分はない。対照的なふたりを選ぶ云々の前に、まだライラは自分の身に起きた出来事が信じられなかった。