「おはようございます、ライラさま」

 いつもと変わらないマーシャの声が、どこか遠くの方で聞こえる。けれどそれはライラの思い過ごしで、実際はすぐそばのベッドの傍らでライラに呼びかけていた。

 眠気が目を開けるのを阻む。そして今日は一段と寒いのが伝わってきた。無意識にベッドに潜りそうになったが、ライラは目を開けて、勢いよく身を起こす。

「マーシャ、無事!?」

 跳ね起きたライラにマーシャはすまなそうな顔をする。

「昨日は本当に申し訳ありませんでした、私の軽はずみな行動のせいで、ライラさまを危険に晒してしまい……」

「マーシャは悪くないよ! よかった。なにもなくて、本当に……」

 ライラはベッドから下りて、マーシャとの距離を縮める。そんなライラにマーシャは困惑気味に微笑んだ。

「それは、こちらの台詞でございます……ライラさま?」

 マーシャの声と表情が急に緊迫めいたものになる。ライラには意味がわからず首を傾げた。

「その目は……」

 続けて指摘されたものに、ライラは大きく目を見張る。心臓の音が一段大きくなり激しく収縮しはじめた。そして、おそるおそる左目を手で覆う。

 見え方もなにもいつもと変わらない。違和感もなにもなかった。

 しかしなんの前触れもなく、その日は突然やってきた。