「だって嫌じゃないから」

 だから、困るの。

 そこまでは言えなかった。スヴェンが再びライラに口づけ、キスを再開させる。先ほどよりも強引で長く、ライラは戸惑いが隠せない。

 触れ方や角度を変え、まるで大事なものを扱うかのような甘いキスに溺れていく。右手は頬に、左手は腰に回されて逃げることもできない。

「ライラ」

 口づけの合間に、彼の落ち着いた低い声で名前を呼ばれ、自然と涙腺が緩みそうになる。深い口づけを交わしているわけでもないのに、息もできず脳にも酸素が足りない。

 くらくらして、濡れた唇が熱くてしょうがない。

 名残惜しげに顔が離れ、ライラはおもむろに目を開ける。しかし、すぐに恥ずかしくなってスヴェンの胸に顔をうずめた。

 スヴェンはライラの髪先に指を滑らせ、肩で息をするライラが落ち着くのを待ってやる。

「……スヴェンにとって私はやっぱり“もの”なの?」

 ライラの意図が読めず、スヴェンは触れていた手を止めた。今の行為か、ユルゲンに対して放った言葉に対してか。

 肯定も否定もできないでいると、ライラが視線を合わせてきた。そして彼女の唇が動く。

「私、あなたのものでいいから。だから、ひとつだけスヴェンにお願いがあるの」

 ライラの行動も発言も、いつも自分の予想の範疇を越えていく。今回もそうだ。スヴェンが答える前にライラは先を続けた。