「お前、なにあいつに籠絡されているんだ」

「されてないよ……彼に触れられるのはすごく嫌だったし」

「は?」

 スヴェンの反応にライラは我に返る。説得力をもたせようとしてつい口を滑らせたが、今のはどう考えても余計な情報だ。急いで顔を上げて補足する。

「ってそんな大げさなものじゃないの。髪とか、抱きしめられたりしただけ。キスも口にじゃなくて、おでこにだったし」

 墓穴を掘っていくライラに、スヴェンが両肩をつかんで真剣な面持ちで尋ねた。

「ほかになにされた?」

 射貫くような眼差しにライラは息を呑む。それからわずかにかぶりを振って答えた。

「……なにもないよ。余計なことを言ってごめん」

「余計なことじゃないだろ!」

 スヴェンの勢いにライラは身をすくめる。これ以上、心配をかけたくないのにうまく立ち回れない自分が情けなくなる。

「わ、私は」

 言いかけてライラは目を丸くした。不意にスヴェンが自分の額に口づけを落としてきたからだ。驚いて目線を上にすると、額を重ねたスヴェンと至近距離で目が合う。

 陰になり視界が暗くなるが、彼の漆黒の瞳にまっすぐに見つめられ、ライラは言葉を失った。

 この後の展開はいちいち言葉にして確認するほどでもない。纏う空気や雰囲気で悟る。それができるほどには、ライラはスヴェンと共に過ごしてきた。