ライラが顔を上げると、スヴェンがライラの頬に手を添えたまま真剣な表情で訴えかける。

「お前を守るために結婚したんだ。だから自分を責めなくていい。今回は俺の落ち度だ。……無事でよかった」

 慈しむように頬を撫でられ、ライラの瞳から涙がこぼれた。張り詰めていたなにかが切れ、とめどなく目尻から溢れる透明な液体が頬を濡らしていく。

 反射的に距離を取ろうとしたが、スヴェンが腕の中にライラを閉じ込めた。力強く抱きしめられ、息も心臓も止まりそうになる。

「こうしてたら見えないんだろ」

『だから私が隠してあげる。大丈夫、こうしていたら誰からも……私からも見えないよ』

 いつか自分が彼に放った台詞がこんな形で返ってくるとは思ってもみなかった。優しく頭を撫でられ、涙と共に押し殺していた感情も解放される。

「ふっ……うっ………こ、こわかった。私っ……」

 嗚咽混じりでうまく声にならなかったが、今になり恐怖がじわじわと毒となって体を回る。

 命の危険を感じたわけでも、直接危ない目に晒されたわけでもない。けれど、体の震えが止まらない。

「もうなにも心配しなくていい。俺がいる」

 スヴェンの穏やかで低い声が耳を通して沁みていく。ライラが落ち着くまでスヴェンはライラを抱きしめたままでいた。

 スヴェンがライラの元を訪れたのは、胸騒ぎを覚えたのも事実だが、昨夜の件も大きかった。

 なにかを話せばいいのか言葉も見つかっていない。気まずくなるだけかもしれないが、自分の中に立ち込める不透明なものが警鐘を鳴らして足を運ばせた。

 結果、早々にマーシャを発見し、ライラがいないことに気づくことになった。あのときの感情は、なんとも表現しづらい。
 
 ただ、今こうしてライラが自分の腕の中にいる現実が驚くほどに気持ちを落ち着かせていく。彼女の護衛を任されたからという以前に、スヴェン自身が心底、安堵していた。

 ややあってライラは軽く身動ぎし、深呼吸して目元を軽く指でこする。そのタイミングでスヴェンはライラの髪先に触れながら口火を切った。