連れて来られたのはスヴェンの部屋だった。そっと下ろされ、足元に力を入れてからライラは深呼吸する。

「本当にあいつには、なにもされていないか?」

 厳しい声色で問われてライラは慌てて首を横に振る。

「だ、大丈夫。この髪も自分で切ったの。なんとか気づいてほしくて」

 自分で脱出するのが無理なら、見つけてもらうしかない。ライラなりに自分の存在を示そうと考えた末の苦肉の策だった。

 不揃いな髪先をライラはぎゅっと握る。スヴェンは複雑そうな表情でライラを見た。

「正直、助かった。おおよその場所の見当はついていたが確信はなかったし、しらみつぶしに探すには時間もなかった。そんなとき外を警備する者から報告を受けたんだ」

「……ごめんなさい」

 責められたわけでもないのに、ライラは謝罪の言葉を声にする。明日は迎冬会で彼は忙しいはずだ。しかし、それを受けてスヴェンは顔を歪めた。

「お前は、なにも悪くないだろ」

「でもっ」

 目の奥が熱くなり、ライラはとっさにうつむく。いつもは顔を覆って隠してくれる髪も今は心許ない。

「謝るのはこっちだ。守ってやれなくて悪かった」

 ライラは軽く鼻をすすり、かぶりを振ってスヴェンの言葉を否定する。

「謝ら、ないで。私の方こそ、またスヴェンに迷惑を……」

「迷惑って思うな!」

 厳しい物言いにライラは声を呑んで、肩を震わせる。けれど次に感じたのは頬に触れる温もりだった。