スヴェンはライラの膝下に手を滑らせ、彼女を抱き上げた。突然の浮遊感にライラの頭も心も揺す振られる。

「スヴェン、下ろして! ひとりで歩けるってば」

「いいから、おとなしくしてろ」

 さっさと部屋を後にすると、スヴェンは薄暗い階段をゆっくりと下っていく。思ったよりも高さがあり、薄寒い空気は徐々にライラの興奮を引かせていく。

 少しばかり冷静さを取り戻したライラは、ずっと気になっていたことをスヴェンにぶつけた。

「マーシャは!?」

「無事だ。今は部屋で休んでいる」

「そっ、か……」

 気が抜けて、ホッとしたのと同時に体の筋肉が弛緩する。ライラは無意識にスヴェンにしがみついた。

「私がいなくなったのに、気づいていないと思った」

 ひとり言のつもりで呟いた言葉には律儀に返事がある。

「一度、部屋に様子を見に行ったんだ。マーシャが倒れていて驚いたが、その時点で意識もあった。ただお前がいなくなってたから……」

「スヴェン、そういう勘はやっぱりすごいね」

 ライラは苦笑する。スヴェンとこうしてなにげないやりとりを交わすのが、ものすごく久しぶりに思えて、なにかが込み上げてきそうになる。

 それを必死で我慢してライラは部屋につくまでスヴェンの肩口に顔を埋めたままなにも言わなかった。