「あのっ」

 そこでふたりのやりとりを聞いていたライラが声を発した。おかげでその場にいる全員の注目を集める。一瞬、たじろいだライラだが思い切って口を開く。

「私、フューリエンなんて言われながら本当は特別な力なんてなにもなくて……スヴェンが私と結婚したのも事情があってで、彼が望んだことじゃないんです」

 さすがにスヴェンが口を挟もうとしたが、その前にライラは早口でユルゲンに向かって勢いよく続けた。

「ごめんなさい。私はあなたのものにはなれないし、結婚もできません。でも……どんな理由でも初めてお会いしたとき、気さくに話しかけてくださって嬉しかったです」

 思わぬ話題を振られ、ユルゲンは目を見開いた。ライラはぎこちなくも笑ってみせる。

「いつかお誘いくださったように、庭園を見せてくださいね。ディスプヌーは育てるのが難しい花ですから……きっと丁寧にお世話されているんですね」

 そこまで言うと、ライラとユルゲンの間にスヴェンが割って入った。静かにライラの肩を抱いて立ち上がらせる。

「お前が俺をどう思おうが、なにをしようがかまわない。ただ、こいつに手を出すなら容赦しない。俺のものなんだ。次はない、覚えておけ」

 言いきってからスヴェンはルディガーに目配せする。

「ルディガー、後は任せた」

「了解。とりあえず彼女を安全な場所へ」

 扉のところで待機していたルディガーが軽く背を浮かして答えた。自分の役目はここからだ。