スヴェンは自分のマントをライラにかけると、立ち上がり壁を背にしてへたり込んでいるユルゲンに視線を移した。

 スヴェンに蹴り上げられ、殴られたユルゲンは頬を押さえながらも、口元には笑みが浮かんでいた。

「やぁ、スヴェン、思ったよりも早かったね。どうしてここが……?」

 いつもの穏やかな調子で尋ねるが、スヴェンは冷徹さを湛えた瞳でユルゲンを見下ろす。

「花を残していったのは誤算だったな。あれは自生はほとんどしない珍しいものだ。お前の家の庭で見た覚えがある。城への出入り者は管理しているんだ。お前が城から出ていないのは、わかっていたからな。それに城の東側の尖塔に位置する部屋の鍵束がなくなったと先に報告があがっていた」

「なるほど。あとは彼女の髪でも見つけた、というところか」

 ユルゲンは皮肉めいた笑みを浮かべ吐き捨てる。スヴェンは冷たく尋ねた。

「自分がなにをしたのかわかっているのか?」

「ああ、わかっているさ」

 ユルゲンは顔を上げスヴェンを見据えた。灰色の虹彩には内に秘めた激情が灯る。

「殴るなり、切るなり好きにすればいい。アードラーが痴情のもつれで内輪揉めなんて傑作じゃないか。ましてや相手はフューリエンだ。いい醜聞になる」

 スヴェンは片眉を上げたが、なにも言わない。ユルゲンは血の滲んだ口の端をわずかに上げた。

「なんでも持っているお前に、なにもかも劣っている……なにもない僕の気持ちは一生わからないさ」