『フューリエンとか瞳の色とか関係なく、私自身を見て好きになってくれる人を探すの。私ね、誰かの特別になりたい!』

 自分で彼に告げた発言を思い出し、今更ながら心の中で訂正する。

 誰か、じゃだめなの。あなたじゃないと。私、スヴェンの特別になりたかったんだ。

 だから一生懸命になれた。

 ひと筋の涙が目尻から滑り、ライラはがばりと身を起こして、気を取り直した。

 落ち着け。しっかりしろ。

 まずは呼吸を整え、頭を切り替える。そして袖口に潜ませていた小さな短剣の存在を思い出した。

 手首を必死に動かし、なんとか手中に収める。縄で縛られている箇所が動かすたびに擦れて痛むが、ライラは必死に刃をロープに当てた。

 その間も、冷静な思考で状況を把握していく。

 ユルゲンが『説得は僕の家で』と言っていたのを考えると、きっとここはまだ城の中だ。扉が閉まった後、しばらく彼の足音が響いていた。

 おそらく階段を下りていったのだろう。とすれば高い位置だ。ここは城の尖塔にある部屋のひとつなのかもしれない。

 まだ望みはある。手のしびれを感じながら、ライラの額にはじんわりと汗が滲んでいた。でも休む暇もない。

 手首も指先も、肩さえ痛むが、ライラは諦めずに刃を懸命に動かし続けた。そしてざっと刃切れのいい音がしたと思えば、ライラの手首は解放された。

 ゆっくりと立ち上がるとロープがはらりと落ちる。安堵の息を漏らし、ライラは手首をほぐす。続いて、脱出の方法を考えた。