そもそも自分がいなくなったことさえ、まだ誰も気づいていないかもしれない。城でライラの存在は極力伏せられていた。

 スヴェンたちも迎冬会の準備で忙しいだろう。マーシャは目が覚めただろうか、大丈夫だろうか。

 あれこれ考え、ライラの思考はパニックに陥りそうだった。

 どうしよう。どうしたらいいの?

 結婚というのは本気だろうか。触れられただけで、背筋が粟立ち不快感しかなかった。けれど、このままさらわれてしまったら、と想像する。

 ユルゲンも書類などどうにでもなると言っていた。実際に今、自分がしている結婚も書類上のものだ。

 スヴェンはどう思うのかな。上手く説明されて、私が彼と結婚するってなったら……納得する? 肩の荷が下りたってホッとする?

 スヴェンは……。

 スヴェンの顔が頭を過ぎり、ライラの涙腺が緩みそうになった。

 会いたい。まだ話したいことが、聞きたいことがあるのに。

 切なくて、胸も痛む。じわじわと溺れたみたいに息が苦しい。その理由がライラにはようやく理解できた。

 私、スヴェンのことが好きなんだ。

 無愛想で冷たくて……でもいつも、なにげなくライラの背中を押してくれる。飾り気のない言葉はまっすぐに響いて、フューリエンだって特別扱いもしない。

 彼といるときだけは、ライラは自分の境遇や立場などを忘れられた。触れられるのを自然と受け入れられる。幸せだと思える時間を久しぶりに与えられた。