「それで、あなたは本当に満足なんですか?」

 ライラが険しい顔で尋ねるが、ユルゲンは笑ったままだ。グレーの瞳が細められる。

「ええ。彼自身がどう思うのかは二の次だ。あなたと結婚すれば、少なくとも周りから見れば僕はあのアードラーのものを奪った存在になる。それがフューリエンならさらに鼻が高い」

 そこでユルゲンの顔からふっと笑みが消え去った。不意に頬に手を伸ばしてきたので、ライラは抵抗しようと身をすくめる。

 けれどユルゲンは強引にライラに触れて、目線を合わせた。

「スヴェンよりも僕の方が、あなたを必要としているんです。大事にしますし、ずっと愛して差し上げますよ」

 言い終わってユルゲンは力強くライラを抱きしめた。一瞬でライラの体に嫌悪感が這い上がり、体を縮める。

「は、なして」

 しかし抵抗しようにも腕が縛られているので、されるがままだ。ユルゲンはライラの耳元で言い聞かせるように囁いた。

「説得は僕の家でじっくりしましょうか。書類などはどうにでもなりますし。もう少しここで我慢していてくださいね」

 言い終わりライラの額に口づける。ライラは目を伏せなにも言わない。ユルゲンが部屋から出ていき、重い錠のかかる音が部屋に響いた。

 ライラはそのまま静かに倒れ込む。

 私、どうなるの? 彼に連れ去られてしまったら……。

 想像しては心臓が早鐘を打ちだし、不安の波が押し寄せてくる。