「ちょうど今、迎冬会のため多くの業者や荷物を抱え、貴族たちが城に出入りをしています。その隙をついて意識を失ったあなたを絨毯にくるみ、ここまで連れてきたんですよ」

 種明かしに感心するつもりもない。それよりも先にライラはあることを思い出し声をあげた。

「マーシャは!?」

「心配しなくても、あれはあなたが嗅ぐ可能性も考慮していたので、数時間もすれば正常に戻りますよ」

 安心していいのか。彼を信じてもいいのか。どっちみちライラはマーシャが心配でならない。ユルゲンはライラを見下ろし、わずかに眉尻を下げた。

「こんな粗末な部屋に申し訳ない。もう少し辛抱してもらえるとありがたいのですが」

「どうしてこんな真似を?」

 ユルゲンの調子は軽やかだが、ライラは警戒心を露わにして尋ねる。ユルゲンは静かに微笑んだまま、ライラの元へ歩み寄るとそっと膝を折り視線を合わせた。

 ライラは距離を取りたくて下がろうとするが、すぐ後ろは壁だ。背中に気を取られていると、不意にユルゲンの手がライラに伸ばされ、左目を隠している前髪を搔き上げた。

「やっ」

 反射的にライラは顔を背け、目をつむる。しかしユルゲンは満足げに口角を上げた。

「片眼異色! しかも黄金色とは! やっぱり。あなたはフューリエンだったんですね」

 彼の声に興奮が混じって一段と大きくなる。ライラは目いっぱい顔を背け、ユルゲンから視線を逸らすことしかできない。