冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「美しい、まるで今宵の満つる月だな。だが残念ながらお前は俺の求めている人物ではなかったようだ。……ライラ、お前は今後どうするつもりだ?」

「グナーデンハオスに、孤児院に戻ろうと思います」

 自分の居場所はそこしかない、当然の答えだった。そこで今まで通りシスターの手伝いをして子どもたちの世話をしたい。

 ところがライラの返答に王はシニカルな笑みを浮かべる。

「やめておけ。またフューリエンを狙う輩がやってくるぞ」

 髪を掻き上げていた手を離すと、再びライラの左目は隠される。王の言葉にライラは愕然とした。

「どういう、ことでしょうか?」

「今までお前(フューリエン)の存在は表立っておらず、噂程度だった。しかしメーヴェルクライス卿が孤児院からフューリエンと思われし人間を引き取った、というのは一部の人間の間で知られる事態になっている」

 それは今の状況が物語っている。王がどこで自分の情報を得たのかライラには想像もつかないが、少なくとも本人の知らないところで話が回っているのは理解できた。

「お前が孤児院に戻ったとなると、それを聞きつけた奴がまた現れるぞ。それこそメーヴェルクライス卿のようにフューリエンの存在を心から望む輩がな」

 ライラの背筋に悪寒が走る。ファーガンはライラが外に出るのを異様に恐れ、窓やドアには鍵をかけていた。そして家人以外に会わすことをけっしてしようとはしなかった。

 小鳥が自分で鳥籠から出る事態を危惧するのと同時に、外から籠の中の小鳥を狙う猫にも警戒していたのだ。