しかし、ルディガーは斜めに目線を逸らし、ふっと笑った。その笑みはいつもの温厚なものではなく、冷笑に近い。

「彼女が大きな勘違いをしていたから、気を利かせたんだ。無理して合わせてたんだろ」

 ルディガーの切り返しにスヴェンは眉をつり上げる。部下が見れば裸足で逃げる形相だ。しかしルディガーはまったく臆しもせず、指を組んで下からスヴェンを見据えた。

「本当のことを言うのが面倒だったのか? お前こそなにやってんだよ。中途半端に手を出すなら相手を選べ」

 きっぱりと言い切るルディガーはスヴェンに反論の余地を与えずに先を続ける。言い方はずいぶんと挑発的だ。

「それともなにか? どうせライラとは最初から終わりが見えている関係だから、適当に相手して付き合ってやってるのか?」

「違う!」

 反射的にスヴェンが声をあげる。込められている感情には苦しさが混じっていた。前髪をくしゃりと掻き上げ苦虫を噛み潰したような顔になる。

「そんなのじゃない」

 ルディガーに言い放ちながらスヴェン自身も珍しく先走る感情についていけていない。自分らしくもないのも自覚している。

 ジュディスの件をライラに言わなかったのは、面倒だとか言う必要がないとか、そういう話じゃない。ただ言いたくなかった。どうしてかライラには知られたくなかった。

 べつに彼女には関係ない。自分がどんな人間か、異性とどういう関係を築こうが。今さら取り繕うつもりもない。