「寒いだろ」

「……この部屋、暖かくない?」

 今日は比較的強めの日差しが部屋の中に降り注ぎ、明るさと温かさをもたらしている。

 スヴェンはなにも答えずライラの頭をそっと自分の胸に寄せた。伝わってくる体温と心音にライラは、これ以上拒むのをやめる。

「スヴェン」

 代わりに名前を呼び、伝えたい気持ちを言葉にした。

「さっき、嫌いって言ってごめんね。あなたには本当に感謝してもしきれないのに。私……」

「謝らなくていい。俺も悪かった」

 遮るように声が被せられ、ライラは目を細める。

「うん」

「なにがおかしい?」

 自然と漏れた笑みに、スヴェンは目敏く気づいて尋ねた。

「これって夫婦喧嘩なのかな?」

 ライラは口元を緩めおかしそうに答える。そして瞳を静かに閉じた。

「無事に仲直りできてよかった」

 スヴェンからの返事はない。けれど頭に手のひらの感触があって、そっと髪を撫でられる。

 スヴェンの方がよっぽど温かい、そう思いながらライラの意識は遠のいていく。

 しばらくして部屋にやってきたマーシャが見たのは目を疑う光景だった。

 部屋の主であるスヴェンはいつも通り机に向かい難しい顔で本を読んでいる。しかし、スヴェンの腕の中ではライラが胸にもたれかかり規則正しい寝息を立てていた。

 マーシャの存在でスヴェンはライラに声をかける。その起こし方もずいぶんと優しい。目を擦りながらこちらを見るライラにマーシャは思わず笑顔を向けた。