誰かがそばにいるのは不快でしかなかったし、ずっと避けてきた。なのに今は、ライラの気配がすぐそこにあって、お茶を淹れようとせわしく動いている。

 それを許したのはほかでもない自分自身だ。

 慣れとでもいうのか。彼女の存在が自然と馴染む。お茶のいい香りが部屋の中を漂うまでスヴェンは自分の作業に没頭した。

「スヴェン」

 ふと声をかけられ、顔を上げると机の端にティーカップが遠慮がちに置かれた。

「どうぞ」

 銀の細工がされている白のカップには、透明感のある琥珀色の液体が注がれていた。普段飲む紅茶よりも鮮やかな印象だ。薬草的な香りがするが、鼻につくものでもない。

「なにが入っているんだ」

「それは飲んで当ててみて」

 悪戯っ子のような笑みをライラは浮かべる。追及しようか悩んだが、スヴェンはおとなしく自分の方へカップを寄せた。

 スヴェンがカップに口づけるのを、ライラは表情を硬くして見守る。まるで試験だ。

 カップの中の液体を口に含めば、苦味よりも酸味を先に感じる。しかし、とげとげしさはなくまろやかで飲みやすい。舌の上を滑り、じんわりと喉を潤していく。

 スヴェンが一口飲んだのを確認し、ライラは口を開いた。

「どう?」

「悪くはない」

「美味しくない?」

「そうは言ってないだろ」

「じゃぁ、美味しい?」

「……」

 息つく間もなく尋ねてくるライラにスヴェンは押し黙る。なにをそこまでムキになっているのか。しかし否定されないのを肯定と受け取り、ライラはよやくホッとした表情を見せた。