セシリアは軽くため息をついてから、ライラに向き直った。

「違いますよ、気になさらないでくださいね。仕事です。市井での聞き込みをするためにこの格好なんです。団服だとどうしても身構えられて、噂話やなにげない情報などは入手しにくくなりますから」

「そう、なんですか」

 ライラはようやく納得する。しかしルディガーは不満げだ。

「そんな全力で否定しなくてもいいだろ」

「冗談は時と相手を選んで言うべきですよ」

「俺はいつでも本気なんだけど」

 それだけ言うと、ルディガーもライラの方に顔を向ける。

「とにかく街に溶け込むことが大事だから、はっきりとした目的地もないんだ。だからライラの行きたいところを遠慮なく言えばいい」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

 ルディガーは柔らかい笑みをライラに送った。

「こちらこそ。気分転換も必要だろうから、思いっきり楽しむといいよ。スヴェンにも言われているから」

「……はい」

 スヴェンの名前が出て、ライラの気持ちがほんのり温かくなる。この場にはいないが、スヴェンの優しさにもライラは感謝した。

 ライラの今日の格好はシフォン生地の落ち着いた淡いクリーム色のワンピースだった。髪は左側で編み込み、ゆるく束ねている。

 移動するのと、街中であまり目立たないためを考えた結果だ。セシリアとルディガーの服装からしても人目を引いたりはしなさそうだと胸を撫で下ろす。