帰り道。
真っ暗闇の中、月明かりと携帯のライト1つ。
夜に2人きりで歩いているだけなのに、変な緊張感と気温の低さで
携帯を持つ手が少し震えていた。
「今日はごめんね。あんまり長居できなくて」
「あ、全然いいよ。
姉ちゃんが椿に手料理食べてもらえて喜んでたし
美味しいって言ってくれただけで充分、俺も嬉しかったし」
「そっか。なら良かった……。
ていうか、晴翔くんのお姉さん 教師目指してるんだね?
私知らなかったんだけど、お姉さんが教えてくれた」
「あれ?言ってなかったっけ?
椿には、もう話してると思ってた」
「お姉さんも同じ事言ってたよ。
それだけ私って馴染めてるって事……?」
「俺の家族、みんな椿の事気にってるから
なんでも話したと思い込んじゃうんだよなぁ」
「それはなんか、嬉しい気がするけど
話が聞けないのは悲しいかな……」
私は、小声で呟いた。
「ごめんな?今度から気を付けるよ」
ねぇ、何でそんな優しいの?
「ほんと?ありがとうっ」
他の人にも優しく接するのかな。
ちょっとだけ、本当に。ちょっとだけ。
他の子にも優しくしてるのだと思うと、嫉妬した。
私が『好き』って伝えられないせい。
待ってなんて言っておいて、結局私は大事な事を言えないまま。
いつになったら言えるんだろうか?



