私が寝泊まりする場所として貸し出されたのは、三階のつきあたりにある部屋。


ここに女性はいないはずなのに、なぜかベッドカバーもカーテンもフリルのついた可愛らしいデザインをしていた。


そんな感じだからか──つい、族の基地にいるということを忘れそうになってしまう。


でも、間違いなくここは『胡蝶蘭』という名のある暴走族のアジトだ。


いくら天馬がいるからって、そう簡単に気は抜いちゃだめだよね。



「よし、しっかりしろ私」



自分にそう言い聞かせて気を引き締めると、ふと屋敷の中が静かすぎることに気づく。


二階へ降りていっても、シンと物音ひとつしない。


昨日は下からも声がしてたのに……。


不思議に思って、おそるおそる幹部室の扉を開けるとすぐに「ん?」と声が返ってきた。


あ、良かった、ちゃんといる……。


その声にほっとしながら顔を出すと、ダイニングテーブルでノートパソコンを前にした櫂さんがわずかに表情をゆるめた。