「ねぇあの人……理月どうしたの? また私、なんか怒らせるようなこと言った?」
「別にそうじゃねぇよ。ただ……」
「ただ?」
「なんでもねぇ。とりあえず桐姉はもう少し自覚を持った方がいい。じゃないと食われるぞ」
いったい何をそんな深刻そうに……。
わけがわからないまま首を傾げる。
というか。
なんだろう、無性に心臓が痛い。
いつもより早鐘を打つ鼓動に戸惑いながらも、私はぺこりと頭を下げた。
「えっと……あの、しばらくの間、お世話になります」
──どんなに振り回されても、忘れてはいけない。
私の目的。
私がここへ来た理由。
それは、これから先の未来に関わる大事なことだ。
顔を上げて窓の外を見上げると、今日の空には星ひとつ浮かんでいなかった。
まるで理月の瞳のように広がる漆黒を見つめながら、私は迷うなと自分に言い聞かせる。
限られた時間だからこそ、私にゆったりしている暇なんてないんだから……。