「……雅さんって律儀なんですね。そんなことをわざわざ伝言に残していくなんて」
「前代の時代からまた少し変わってるから、正直雅さんも面食らってるところじゃないかな」
ここへ入る時に、私を安心させるために言ってくれたことだと分かってるから、雅さんを責めるつもりはないけど……。
「まあ今回の場合、雅さんが悪いんじゃなくてうちの総長のせいだけどね」
「かじや、りづき……」
覚えとけよと言われた名前を、言われた通りに覚えてしまっている自分には嘆息するしかない。
そもそもの問題児はあの男だ。
梶谷理月──胡蝶蘭の総長。
天馬を蹴り飛ばしたり、私をからかって遊んだり、現れた瞬間からとんでもない人だった。
私を見下ろす夜を映したような漆黒の瞳だけが、ひどく印象に残っている。



