◇ 退院したその日の夕方、私はあの日飛び込もうとした橋の上にいた。 二メートルほど離れたところには、向かい合うように理月が立っている。 ふたりきりで話がしたい──。 そう言い出したのは理月の方だけれど、この場所を指定したのは私だった。 「……なんでここなんだよ」 「なんとなく」 「俺が困ってんの見たかっただけだろ」 「あ、困ってるんだ」 クスッと笑うと理月が面食らったように眉間にシワを寄せて、前髪をかきあげた。