「お父さんがお父さんとして話してるのは、今日が初めてなんじゃない?」
お父さんの肩がうろえたえるように揺れた。
「……申し訳ないけど、私は椿グループを引っ張ってるお父さんしか知らない。仕事をしている時のお父さんは確かにすごいし、尊敬だってしてる。でも、父親かって言われたら……正直、よくわかんないよ」
少なくとも私は、お母さんと天馬が家を出てからずっとひとりだった。
生活は何も変わらなかったはずなのに、心にぽっかりと穴があいて、なんのために生きているのかわからなくなってしまった。
お母さんが亡くなって、天馬が戻ってくると知った時も。
天馬がお父さんを拒んで家を出ると豪語した時も。
……どこかぼんやりとした世界の中で、そういうものか、と他人事のように考えていたかもしれない。



