「……私が高校に上がってから、お母さんいつもホッとしたような顔してた。肩の荷が降りた、みたいな」
お母さんは優しい人だった。
お父さんが仕事から帰ってこなくても、文句ひとつ言わずに私や天馬の相手をしてくれた。
家にはお手伝いさんがいるのに、自らも家事炊事を怠ることなく『母』を務めてくれていた。
……それでも、時々。
なにかに思いを馳せるように、外を見ていることがあった。
「一度お父さんを裏切ってしまったから、お母さんはそれから不安にさせるようなことは何もしなかったんだよね。あまり家から出ないで、出ても私か天馬のどちらかを連れていくようにした。私たちがどれだけ習い事をさせられても何も言わなかったし……お父さんがすることに口出ししたことはなかったんでしょ?」
今ならわかる。
お母さんにとって、あの家は贖罪にも等しい檻の中だった。



