「……わたしはお前たちにとっての『良い父親』にはなれなかった。いいや、そもそも母さんがいなければ、わたしは父親にもなれないんだろうな。
親の監視下で、目の届く場所で、手のひらの中で……そんなものは無益なのだということすら気づけなかった」
あまりに突然のことで私と天馬がついていけてないのを見ると、お父さんは小さく息を吐いてこちらに向き直る。
「受け入れ難いのはわかる。わたしがお前たちにしてきたことを考えれば、嫌われるのも当然だ。母さんにだって……」
「……今さら……今さらなんだってんだよっ」
母さん、という言葉を聞いた瞬間、天馬が堪えられなくなったように椅子を蹴って立ち上がった。
「母さんがどれだけあんたのせいで苦しんだと思ってんだ! そりゃ確かに、最初に裏切ったのは母さんかもしれねぇけど……っ」
「……天馬、やめなよ。そんなの言ったところで何も変わらないでしょ。お母さんは帰ってこないんだから」
わざと淡々と口を開きながら、私は天馬を落ち着かせる。
ぐっと押し黙った天馬は、ふたたび苛立ったように椅子に腰をおろした。



