「自分勝手だと思うか? だがな、そもそも俺とあんたは根本的に違うんだ」
孤独な悪魔を包み込む、唯一の天使──それが雅さんにとってのサリさんならば。
孤独な天使を守り抜く、唯一の悪魔──それがサリさんとっての雅さんなのだ。
そんな双方の関係を持つ……愛し合うふたりとは、わけが違う。
「俺にとって、確かにあいつは守るべき存在なのかもしれない。でも、あいつにとっての俺は"弟が身を置く暴走族の頭"だ。それ以上もそれ以下も有り得ねえ。
それが何を示すか、あんたにはわかんねえだろうがな」
混乱するようにオロオロする天馬と、困ったように顔を見合わせ合う風汰と瀬良。
睨み合う俺と雅さんを、この場で恐らくただ一人──本当の意味で『事情』を知っている櫂さんは、何を考えているのか分からない顔で眼鏡の奥からこちらの様子を窺っている。
『それ』を雅さんに伝えていないだけ、櫂さんは良くも悪くも胡蝶蘭に忠実なんだろう。
だからこそ、総長権限で幹部の座を解かずに任せ続けているわけだが。



