……皮肉だな、なにもかも。
自嘲気味にそう思った刹那、一瞬だけ胸の中で渦巻いた黒い闇から目を背けるように私は顔を俯ける。
「天馬ってのは、椿天馬のことか」
私の背中を落ち着かせるようにゆっくり撫でながら、大翔さんは躊躇いながら呟いた。
やっぱり、知ってるんだ。
きゅっと唇をかみしめたら、じわりと鉄の味が口の中に広がった。
「てことは、君は──」
「椿、桐乃。……椿天馬の姉です」
こんなこと、気づきたくなかった。
ここまで来て、気づくべきじゃなかった。
「弟に、会わせて下さい」
──私はずっとあの子を憎んでいたんだって。



