「──でも人間って不思議でね。たったひとつの出会いが、なにもかもを変えたりするんだよ。世界がまるごと、塗り替えられるみたいに」
「まるごと……」
もし。
……もし本当に、そんなことがあるのなら。
「まるで、奇跡みたいなお話です」
一瞬、なにか望んではいけないものを望もうとした自分がいた。
サリさんの言葉は、どうしてかひどく胸に刺さる。
体の底に埋まっている手の届かない部分が、じくじくと疼いていたたまれなくなってきてしまう。
夢物語だ、なんて、そんなこと言えないけど。
それでも私が生きるこの世界は生まれた時からこれまで、たったの一度だって塗り変わったことはない。
それが現実なんだ。
わかってる。ちゃんと、頭では。



