「雅やみんなと出会って生きる希望を見つけた。手術は成功したし、幸いなことにみんなの事も忘れることはなかった。私が失ったのは〝地獄〟だった時の記憶だけ」
「地獄……?」
「そう、昔のこと。みんなと出会う前のことを忘れたの。でも、本当は忘れてなかったりもする」
どこかイタズラな顔で首を傾げたサリさんは、一瞬天使ではなく小悪魔に見えた。
あまりの矛盾に困惑して涙も引っ込んでしまう。
「女は秘密がある方が綺麗になれるって知ってる?」
「秘密……?」
「なんてね」
私の頬に伝っていた涙を細くて綺麗な指先で拭うと、サリさんは静かに隣に腰かけた。
「ここはね、自然とワケありが集まってくる場所なんだ。みんな何か抱えて生きてる。抱えながらも必死に毎日を生きてる人たちが家族でいられる、そういう場所」
「……家族」
「とはいいつつ、あたしも最初はそんなの綺麗事だって思ってたよ。バカバカしいって」
サリさんでもそう思ってたなんて、さすがに少し驚く。
雅さんや櫂さんとの会話を見ている限り、そんなふうに思っていたとはとても信じられない。



