「はいはい、どちらさ……」



扉の先にいた人物を捉えるやいなや、ぎょっと目を見開いた天馬の声が止まる。


私も「あっ」と小さく声を上げた。



「雅さん……!」


「ああ……昨日の」



一日ぶりの雅さんは黒いスーツを着ていて、昨日とはまた違う大人な雰囲気が漂っていた。


引け腰になりながら中へ招きいれる天馬にちらりと視線を向けてから、雅さんは廊下の方を振り向いた。



「そんなとこでなにしてんの」



いったい誰に話しているのか、あの雅さんの口もとにおかしそうな微笑みが浮かんでいる。


昨日『どこかの誰かさん』と言っていた時と同じ瞳。


やがて雅さんの後ろから、ひょこりと顔を出した人物にその場の空気が一変した。



「……こんばんは?」



ふわりとしたライトブラウンの髪が肩上で揺れる。


雪を映したような真っ白な肌に色素の薄い大きな瞳。


私よりも小柄でずいぶんと華奢な『彼女』は、一見天使を思わせる風貌で、その場にいたほとんどの人物が思わず見入ってしまっていた。


ひとり動揺しなかったのは理月で。


誰よりも先に我に返ったのは、櫂さんだった。