「天馬が家を出てから今日までの動向をあの人が把握してないわけがないでしょう。あんたの口座にお金を振り込んでたのは確かに私だけど、間違いなくあの人は天馬の事を遠くから……それでも確実に監視してたよ」
「っ……」
天馬だって、それはわかってるよね?
立ち止まり、静かに振り返って強い視線で問いかける。
「だから私は、それを利用して家を出てきたの。胡蝶蘭から天馬を連れ戻す──っていう条件のもとで」
「俺を……胡蝶蘭から、連れ戻す?」
何言ってるんだよ、とでも言いたそうな困惑した顔で天馬は私を凝視する。
わけがわからない。そう思うのも無理はない。
なぜなら私の行動に道理がないから。
「桐姉は……俺を、助けてくれたんだろ」
「二年前はね」
「っ……なのに、どうして!」
──裏切り者。
そんな言葉が脳裏にひっそりと浮かんで消えていった。
そこまで続けなかったにせよ、天馬にとって今の私は間違いなく『裏切り者』に違いない。
そう、いっそのこと罵ってくれたら心も楽になるのに。



