「あいつがそう簡単に許すはずがねぇ。いったいどんな手を使ったんだ、桐姉」
「…………」
背中に刺さる天馬の鋭い視線は、今日受けた中でも一番の冷気を含んでいた。
あの人の存在の次に怖いのは天馬かもしれないな、と自嘲的に思う。
……答えるべきか、答えざるべきか。
まあたとえここで真実を伝えようとも、天馬は信じようとしないだろう。
だからといって、その場限りの嘘を見破れないほど『椿家』の人間は甘くない。
「……あんたは、まだ何もわかってないんだよ」
「あ?」
「でも、そのままでいてほしかった。何も知らないまま、椿家の鎖に縛られることなく、自由に生きて欲しかった。だから私は天馬を家から出したの」
天馬が家を出ていった日のことは、昨日のことのように覚えている。
あの時も私はあの人に『条件』をつきつけて、半ば無理やり天馬を家から引き離したんだ。
反抗期の少年は、何も知らないまま。



