「ごめんね。でも清水先生はうちの2代目だから、仕方がないといえば仕方ないんだよね」
「2代目……!?」
かつて胡蝶蘭で総長をやっていた人が、まさかここで教師をしているなんて……。
いや、でもたしかにそれなら私のような得体の知れない女に警戒するのも無理はない。
ひとり納得しながらもう一度様子を窺うと、もう話は終わったのか、理月だけがこちらを見上げていた。
その顔は相変わらず不機嫌そうで、思わず笑ってしまう。
「なんか待ってるみたいなので、私行きますね」
「うん、何かあったら三年の教室においで」
「ありがとうございますっ」
よくよく考えてみれば、幹部のみんなは優しい人ばかりだ。
風汰先輩、瀬良さん、天馬に櫂さん。
癖のある人達ばかりだけれど、私に対して剥き出しの敵意を向けてくるわけでもなく、こうして受け入れてくれるのだから。
……いくら天馬の姉とはいえ、突然やってきた私を基地に置いてくれた上、守ると言ってくれたわけだし。
階段をぱたぱたと駆け降りながら、思う。
それでも。
──それでも、いつか。
そう遠くない日に。
もしも私がみんなを裏切らなければならない時がきたら。
天馬を、裏切らなければならない時がきたら。
そのとき私は、どんな選択をするんだろうか──。



