「……あ、それとも、ホントは私が来て嬉しかったのに素直になれなくてツッパっちゃった?」
「──あ?」
「嘘です、ごめんなさい」
頭を片手で鷲掴みにされ、理月の顔に邪悪な笑みが浮かぶのを見て、私は頬を引きつらせたまま即刻謝る。
理月を怒らせたら今夜の宿屋が失われる可能性があるし、なるべく穏便にいきたいのだ。
冗談が通じないのもどうかと思うけど……。
「再度うぜー」
苦々しい顔で頭を離した理月は深いため息をつくと、鬱陶しかったのか無造作にネクタイをゆるめた。
「っ……」
ただ、それだけ。
なのに、理月がやると妙な色気が溢れ出て、思わず大げさなほど目を逸らしてしまう。
一瞬だけ視界に入ったのは、ただでさえ気崩した制服のシャツの襟元からのぞいていた鎖骨。
綺麗なラインを描いたそれは、細身ながら筋肉のついた理月の身体つきを表していて戸惑いを隠せない。



