さっきの出来事を掻い摘んで話すと、今度はアオイが笑う番だった。



「坂下先生、そりゃあ逃げたくもなるって…。」



「でしょ?

だから、口紅付いちゃったのは、このオジサンのせい。」



私はサカシタを指差して言った。



「口紅、つけなきゃ良いだろ。」



アオイは眉間にシワを寄せながら、私の頭を小突いた。



「何するのよアオ鬼、暴力反対!」



「アオ鬼って…。

僕には柾樹っていう立派な名前があるんだ、変なあだ名付けるな。」



「じゃあ、鬼マサ。」



「…マセガキ。」



「私だって、一応は若菜って名前があるの!」



私がそう言うと、サカシタが口を挟んだ。



「あぁ、だから返事を…。

ところで蒼先生、何故ここにいらしたのですか?」



「教頭が、坂下先生の姿が見えないって心配してた。

式典までは間があるのに、ちょっと神経質じゃないかな。

顔合わせから数日しか経ってないけど、上手くやっていけるか…。」



アオイが、頭を掻きながら言った。