「ミカ、一体何なの?」



質問に答えることもなく、深夏は私の腕をひっぱったまま、廊下を小走りで進む。



「ミ~カ~!」



連れられた先は、ウチの部室。



いつもと違うのは、そこに黒山の人だかりができていた。



黒山を掻き分けて、部室に入った私の目に飛び込んできたものは…



私の名前と、“怨”の文字。



文化祭の看板に、でかでかとカラースプレーで書かれていた。



深夏は私の手をひいて部室から出ると、人気の無い廊下に連れて行った。



「犯人に心当たりは?」



書道部の2年たちだろうとは思うけど、不用意に発言しないに越したことはない。



「ミカは、どう思う?」



「まず、2年の書道部。

それと、ワカがいなければ学年トップに躍り出る2位争いしてる連中。

他にも、蒼先生に変なあだ名つけてるのが気に入らないファンのコ。

その線でいったら、坂下先生のお気に入りになのを妬んで…っていうのもあるかもね。」



鬼マサはともかく、坂下ラブな生徒がいるの?



「随分、範囲広いね。」



半分呆れたように言うと、聞き返された。



「じゃあ、ワカは?」



「とりあえず、怨って漢字が書けた人。」



「ワカ、真面目に考えようよ。

犯人捕まえたくないの?」



「犯人よりも、先に看板直さなきゃ…。

午後の授業、サボるからよろしく。」



私は深夏に言い残すと、部室へ向かった。