私が家に着いた頃には、みんなも戻ってきていた。



部屋で一息ついていると、外から大声が聞こえた。



「お祖父様に弟子入りしておきながら若菜を足蹴にするとは、桐生家の人間を馬鹿にしているのか!」



お兄ちゃんの声だ。



私のことで書生を怒っているんだと思うと、ちょっと嬉しかった。



部屋から外を覗くと、お兄ちゃんと目が合った。



「若菜、蹴られたのを見られていたならお祖父様に報告しろよ。

福沢先生からその話を聞いて、お祖父様は恥をかいたとお怒りだぞ!」



お兄ちゃんは、書生に向き直ると



「お前、僕に対してナメた真似したら承知しないからな。」



「は、はい!」



書生は頭を下げながらそう言うと、下がっていった。



一瞬でも、お兄ちゃんが私を庇ってくれたって考えるなんて…。



私はホントに馬鹿だ。



今までだって、そんなこと一度だってなかったのに…。



「若菜、お祖父様が部屋に来るように…だってさ。」



そう言って、お兄ちゃんは部屋に入ってしまった。



恥をかいたと怒りまくったジイサンが、何を言うかは見当はつく。



今日も、長い説教になりそうだ…。