その声の方を向くと、野田先輩が走ってきた。



卒業生が来たってことは、式典はもう終わったのだろうか?



予定では、送辞が行われるのはもう少し先のはずだけど…。



私がやるはずだった送辞、どうなったんだろ?



「桐生、送辞は?」



「え?式典終わったんじゃ…。」



「まだだよ。

俺はちょっと、抜けてきただけ。」



だったら、急げば間に合うだろうか?



駆け出そうとする私を、野田先輩は私の肩を掴んで止めた。



「先輩、放して。

もう行かなきゃ、間に合わないんでしょ?」



「桐生がするべきなのは、ちゃんと坂下とお別れすることだ。」



「でも…。」



「火葬場の時間もあるし、そういつまでも坂下をここに置いとくワケにはいかないんだぞ。

桐生、また後悔したいのか?」



私はその問いかけに、首を横に振る。



「だったら…ここで思う存分、坂下を弔ったらいい。

ところで、送辞の原稿はどこだ?」



「教室の、バッグの中…。」



「分かった。

後は俺が何とかしてやるから、式典のことは気にするな。」



野田先輩はそう言い残すと、校舎に向かって走っていった。



私は野田先輩の言葉に甘えて、黒川さんが開けてくれた坂下の棺に近づく。



棺の中の坂下は、白装束でなく、式典で着る礼服姿だった。



前髪は額にかからないように整えられ、伊達メガネをかけた教師モード全開なカンジ。



私は籠から白い花を一輪ずつ取り出すと、坂下の棺に納めていった。



『パパ、大好きだよ』



って、想いを込めながら…。