斎場近くの駐車場に佇んでいると、焼香を済ませたと思われる野田先輩が駆け足で向かってきた。



「桐生、もう焼香終わっちまうぞ。

今なら、急げば間に合うから…。」



「無理。」



「何言って…。」



反論しようとする野田先輩のセリフに



「あの騒ぎよう、先輩だって聞いたでしょ?」



被せるように、私は言葉を発した。



「頭おかしいオバサンの言うことなんて、間に受けるなよ。

ちゃんとお別れしなきゃ、後悔するのは自分だろ?」



私だって、坂下と最後のお別れをしたい。



だけど…。



「頭がおかしかろうが何だろうが、どうでもいいの。

あんな所で大騒ぎになったら、先生が可哀想だよ…。」



こみ上げてくる涙を、手の甲で拭う。



野田先輩は何も言わずに、私の頭をしばらく撫でてくれた。



焼香を諦めて家に戻ると、玄関先に父がいた。



「若菜ちゃん、中に入る前に…。」



そう言うと、父は私に向かって何かを撒く。



よく見ると、塩だった。



何で、私がお通夜に行ったのを知っているんだろう?



「後ろ向いて。」



言われた通りにすると、背中にも塩を撒かれた。



「若菜ちゃんと同じ制服の子がゾロゾロ歩いている中、麗子を見かけた。

彼女の元亭主、若菜ちゃんの学校の先生なんだね。」



私は父に背中を向けたまま、頷いた。



でも…亡霊騒ぎで、まともにお別れもできなかったんだよ。



家で泣くなんて、絶対したくなかった。



私は泣きたい気持ちを抑えこんだまま、家の中に入った。