親族の焼香に続いて、弔問客の焼香が始まった。



私と野田先輩は、列の後ろの方に並ぶ。



坂下には大学生の息子がいた筈だが、なぜか坂下の妹が喪主として、焼香を済ませた弔問客に頭を下げていた。



中盤に差しかかった時、坂下の妹が焼香を済ませたアンジェ先輩に掴みかかって彼女を罵倒する。



弔問客で来ていた男性たちが飛び出して、騒ぎを鎮めていた。



それにしても、アンジェ先輩と坂下の妹の間に何があったというのか?



「兄さんの代わりに、アンタが死ねば良かったのよ!」



なんて、物騒な…。



程なく、坂下の妹は葬祭場のスタッフらしき男性に付き添われて、定位置に戻った。



付き添いのスタッフ、どこかで見た気がする…のは気のせいか。



焼香の順番が、あとちょっとで回ってくる時になって…。



「きゃあああっ!!

和歌の亡霊がっ!」



坂下の妹が指を差しながら、突然叫びだした。



その方向は、どう考えても私を指している。



「和歌が生徒の振りして、兄さんを迎えに…。」



これ以上騒ぎを大きくしてしまうと、周りに迷惑をかけることになる。



「先輩、私の分も焼香しといて。」



そばにいた野田先輩に言い残すと、私は踵を返した。



「おい、桐生!?」



引き留めようとする野田先輩の声を背中で聞きながら、私は斎場を後にした。