「…りたくない。」



「何か、言ったか?」



私の掠れたような声が聞き取れなかったのか、蒼が聞き返す。



「帰りたくない!」



「何言ってるんだ、そうはいかないだろ?」



「ヤダヤダっ!

このままじゃ私、潰される…。」



いっそのこと、自分を失ってしまった方が楽になれるとしても…。



今潰されるのは、まっぴらだ。



「家で、何かあったのか?」



蒼の言葉に、私は首を横に振る。



「こうしていくら書いても気持ち晴れないし、漱石には話聞いて貰えないし、もうどうしたら良いか分かんない!」



私は言うだけ言うと、しゃがみこんだ。



頑として、ここから動かない構えでいる。



「桐生、坂下先生と話すか?

お前だったら、坂下先生の居場所教えても…。」



「坂下のことを、坂下に話してどうすんのよ!

鬼マサのバカ!!」



「なぁ桐生、いつまでも学校にはいられないしさ…。

とりあえず、ここを出よう。」



「とりあえず出たら、家に帰す気でしょ?」



「桐生が家に対して不満だらけなのは、分かってるつもりだ。

いきなり家に帰したりしない、それは約束する。

僕で良ければ、話くらいは聞いてやるから…な?」



私と同じように家が嫌で出て行った蒼の言葉だったから、信じられた。



部室の鍵を閉め、蒼の後をトボトボとついて行く。



シルバーのワゴン車に乗り込むと、蒼は電話をかけ始めた。



少し待っても相手は出ないみたいで…。



「喬木さんがダメじゃあ…、仕方ないか。」



なんて呟いてた。