「ここで喫煙したこと、内緒にしてください。」



坂下は人差し指を立てて、口元に当てる。



身構えていただけに、ちょっと拍子抜けした。



「今更、何言ってるの?

何度かここで吸ってるの、見てるんだから…。」



「そうでしたね。」



坂下は、吸い殻をしまう。



「桐生さんに、お聞きしたいのですが…。」



今度こそ、吸い殻のこと?



「部長は、どうやって決めましたか?」



新部長が部の中でも出来が良くない子じゃあ、坂下が疑問に思っても不思議はない。



私は部長になりたくないし、2年の間で話し合っても折り合いがつかず、ある方法で決めた。



結果、話し合いでは名前も上がらなかった子になった。



何て答えようか困っていると、坂下が口を開く。



「話し合いですか?」



「あ、うん…。」



話し合って『あみだくじ』にしたのだから、嘘じゃない…と思う。



それにしても、グロスのことは気づいてないの?



それとも、気づかない振りしてくれているのか…?



私には、掴めなかった。



しばらくお互いに黙り込んで、静寂の中に身を委ねる。



突然、坂下が激しく咳き込んだ。



「先生!」



背中を丸めて、なおも激しく咳き込む坂下。



咳が治まるまで背中をさすり続けることしか、私にはできなかった。



咳き込み過ぎた坂下は、グロッキー状態。



「授業終わったら起こしてあげるから、少し休んだら?

膝枕…しても、良いし。」



「私は、抱き枕の方が好みなのですが…。」



抱き枕!?



「えっ、あっ、えっと…。

い…良いよ。」



私の顔は、みるみるうちに真っ赤になる。



「申し訳ありません、冗談が過ぎました。」



坂下は私の頭をひと撫ですると、椅子に凭れたまま眠りに就いた。