そんなことより、ちゃんと聞いておかなきゃ。



「誰からなのか翠子さんに伝えるから、名前教えて。」



「中に名簿を入れていますが、翠子様ファンクラブ一同って言えば分かると思いますわ。」



そう言い残すと、一礼して保健室前から去った。



保健室に入ると、ベッドで横になってる野田先輩の脇に、翠子がいた。



「翠子さん、ファンクラブのコたちから預かったよ。」



紙袋を渡すと、翠子は嬉しそうにしていた。



「それと、あの場にいたコたちも一緒に探してくれて、ボタン全部回収できた。

この学校のコたちみんな親切だよね、良いなぁ…。」



「桐生…。」



野田先輩はそう口にすると、見透かしたような目で私を見る。



「何…?」



脳裏に浮かんだことを言い当てられたくないな…、って思いつつ聞き返した。



「翠子のボタン、付けてやって。」



「えっ、裁縫できないんだけど!?」



「噂には聞いてたけど、ホントに勉強しかできない奴だな…。」



呆れた口調だったものの、野田先輩は笑ってた。



「別に、困んないし。

しばらく1人で見て回るから、先輩は休んでて。」



保健室から出ようとすると、翠子が駆け寄ってきた。



「私も一緒に…。」



「翠子さんは、先輩と一緒にいてあげて。」



翠子は頷くと、巻いてあげたスカーフを外して私の襟元で結んだ。



私がいつもする固結びでなく、可愛い蝶結び。



私はそれを大いに気に入り、この日からスカーフはずっと蝶結びにした。