「誰かいるのか!?」



教頭が、勢いよく教室のドアを開けた。



「あ…、桐生。

今日は、休みだったはずでは?」



私だと分かると、声色を変えて話しかける。



これは、学校1の才媛っていう肩書きのせいだ。



「坂下先生に借りていたものを、返しに…。」



「具合悪そうなのに、律儀だな。」



教頭はそう言うけど、私が青ざめた顔をしてるのは体調が悪いわけじゃない。



後から出てきた坂下に書道具を渡すと、腕を掴まれた。



「話の内容は、どこまで聞いていたのですか?」



坂下の口調は優しかったけど、目が怖かった。



私は首を横に振ると、空いている手で教頭の袖を掴んだ。



「桐生、体調が優れないなら自宅まで送ろうか?」



教頭の言葉に、坂下の手を振り解きながら頷く。



坂下から視線を逸らした私には、坂下の目に悲壮感が漂ってることは知る由がなかった。



教頭に家まで送ってもらっている最中、考えるのは坂下のことだけ。



私のせいで、坂下が辞めさせられたら…。



「教頭先生、あの噂…嘘なんです。

私、坂下先生と不倫なんかしてません!

だから…坂下先生を辞めさせないでください、お願いします!!」



教頭は私の言葉に面食らった顔をしたけど、すぐに表情を元に戻した。



「桐生は…、何も心配することは無い。」



そう言われても、不安な気持ちは拭えなかった。