「そうだ……!」


ぼんやりとしていた私はふと、正気を取り戻す。

ここはきっと、元の世界……現世。

だとしたら……忘れてはいけないことがあった。

そう。

かけがえのないただ一人の弟……健のこと。



私は遥か彼方に広がる夜景に向かって駆け出した。

ここがどこかは分からない……だけれどもきっと、『異世界境界』。

そんな名前のホテルがあった所だ。

だとしたら、車で十五分もかかっていなかったはず……!



(寒い……)

走り続ける私は、顔に当たる風の冷たさで思い出した。

そう……元の世界は、冬だったんだ。


息が上がって、吸い込む空気が冷たい。

肺が痛い……けれども私は、懸命に走り続けた。




「ここだ……」

どこをどう駆けたのか……一体、どのくらい走ったのかも覚えていない。

だけれども、気がついたら健の入院している病院の前に着いていた。


病院はもう閉まる直前だったみたいだけれど……私は思わず駆け込んだ。


「健……香坂 健をお願いします!」


咳き込みながら、物凄い勢いで言う私に看護師さんも驚いた様子で……消灯前だったけれど、特別に面会を許可してくれた。