* *


高校三年生の夏のことだった。

奈美がずっと好きだった想い人にフラれたのは。


それも、直接フラれたわけではない……いや、直接フラれる方が、まだ良かった。


どういう成行だったのかは、覚えていない。

ただ、お昼休み……奈美は彼にそれとなく聞いてみたのだ。

好きな女子はいないかって。


「いるよ」


彼のその言葉を聞いて、奈美の心はドクンと跳ね上がった。


(それって、もしかして、私……?)


自信はあった。

奈美は彼と同じクラスだったのだが、クラスの女子の中では一番とはいかないまでも、二番目には可愛いと噂されていた。

そして何より、クラスの中で彼と一番親しく話をしたり、冗談を言い合ったりしていたのは奈美だったのだ。

そんな日常が奈美にとってはこの上なく幸せだったし、彼の方も満更ではない……そう思っていた。


「ねぇ。それって、もしかして……」


彼女が口を開いた時だった。


「香坂さん」

「えっ……」


彼のその一言で、奈美は期待で舞い上がった気持ちから、奈落の底へ転落した。

(どうして? 何で……?)

心の底から、どす黒い感情が湧き上がる。

しかしそんな奈美の様子には微塵も気付かずに、彼はうっとりと宙を見上げる。


「彼女、すっごく綺麗で、いっつも目が合っただけでドキドキしてさ。少し言葉を交わしただけでめっちゃ幸せなんだ。これが恋っていうものなんだなぁって」

「そんな……やめときなよ。あのコ、いい噂、ないよ」

「えっ?」


怪訝な表情で見つめる彼に、黒い感情に支配されている奈美はさらに言葉を続けた。