(寒い……寒くて体が震えるのに、お腹と背中はとても熱い……)

燃えるような熱さと痛みに、ルルはただ耐えているしかない。

「ルルさん!」

呼ぶ声に答えるように、ルルはうっすらと目を開け、自分を見下ろしているノエンの顔を見た。

とても近い距離にいることから、自分は今、ノエンの腕の中にいるのだろう。

寒くて、痛くて、熱いというのに。ノエンに包まれていると分かると、胸の奥に優しい光が灯る。

ノエンがラッドを憎んでいたと知った時、ノエンのルルに対する言葉は嘘だったのだと気付いた。

「…………ノエン……さんは……私がラッドと……一緒……いたか……私に……優しか……の?」

息が苦しくて、上手く言葉を発せられない。

けれども、ノエンの耳にはしっかりと届いていた。

悲しげに眉を下げ、肩を震わせているノエンの姿は、まるで置いていかれた子供のようだ。

「私は……マンティコアに、ラッドの母親に……家族を奪われたんです」

ノエンは手短に、家族のこととここに来た目的を話した。

「私はラッドを殺すためだけに生きてきた。……そのために誰が死のうとも構わなかった。……なのに」

ルルだけは、殺したくなかった。

ルルを傷付けたくはなかった。

「……ノエンさ………私……ね」

「喋らないでください!血を止めなければ」

ルルの背中からは、止めどなく血が流れており、顔も青白くなっていく。

早くしなければと思いながら、もう手遅れなのだと気付いていた。

リュート達は何のつもりなのか、先程から黙って二人のやり取りを見守っている。

「…………私…………ね」

ルルは力を振り絞り、左手でノエンの頬へと手を伸ばす。

言うつもりは無かった。けれども、やはり言わずにはいられなかった。

「……ノエンさんが……好き……」

「……っ」

知っていたルルの想い。気付かないふりをしていた想いが、ルルの口から紡がれたことで、どしりと重く、深くのしかかった。

死にかけの少女の言葉と言うのは、こんなにも自分を掻き乱すものなのだろうか。

「貴方が……私を……どう思っ……としても……私は貴方が……」

ルルの瞼は重くなり、瞳の光は濁っていく。

伸ばした手はノエンの頬に赤い痕を残し、だらりと下がる。

涙で濡れた視界のせいで、ノエンの顔が良く見えない。

(……駄目……せめて、最後にもう一度)

最後にもう一度だけ、自分の想いを伝えたい。

「……好きっ―」

息を吐き出すのと同時に、ルルの意識は途絶えた。

ノエンは声の出し方を忘れたかのように、口を開きかけてはまた閉じた。

『……』

低い唸り声と、大きな影が二人を覆い隠す。

呆然と見上げると、ラッドが口を開けていた。