「いい加減、うんざりなんだよ。そこの太ったおっさんに従うのも、見世物にされるのも……こいつを悲しませるお前達には、へどがでるほどうんざりしてるんだ!!」

吐き捨てるように怒鳴ると、リュートはルルの側へ寄り、その手を掴む。

団長は出血が酷く、このまま放っておけば死ぬかもしれない。

だが、観客は逃げるのに精一杯で、誰も団長を助けようとしないし、リュートとノエンに見向きもしない。

火に包まれていくテントの中で、ノエンとリュート達はお互いに向き合っていた。

「俺達幻獣は、もうお前達何かに従わない。そして俺達は、ルルを守ると決めた」

リュートとルルの回りに、幻獣達が集まる。

だが、ラッドだけはルルの側に寄ろうとしない。

「……私はルルさんを殺す気はありません。私が殺したいのは、そこのマンティコアだけですから」

カチャっと金属の鳴る音が響くと、ラッドの鼻の上に皺が寄る。

「ラッド、駄目!」

ルルの声に、ラッドは余計に苛立ちを露にする。

これ以上頭に血が上れば、また前と同じことになりかねないだろう。

「ラッドのやりたいようにさせておけ」

「殺る気ですか?……こちらも遠慮はしません。今こそ、家族の恨みを晴らす!!」

ノエンは走りだし、ラッドもルル達の上を飛び越える。

「死ね!ラッド!!」

『ガァァァァァ!!』

牙を剥き出し、鋭い爪を振り上げたラッドと、刀を抜いたノエン。

二つの刃がぶつかり合うその寸前―。

小さな影が二人の間に割って入った。

すると、何かが切り裂かれるような音と共に、赤い鮮血がまるで雨のように降り注ぐ。

「……ぁ……っ」

『……』

ノエンとラッドは、熱い雨を浴びながら固まった。

目の前にいる人物に、声をあげることも忘れて立ち尽くす。

「……ノエ……さ……」

ラッドを庇うように立ち、お腹にグッサリと刺さった刀を握りしめ、切り裂かれた背中から流れた赤い雫が、ルルの足元に水溜まりを作っていた。

ノエンは自分の手の先を見て、血の気が引く。

「……ルル……」

呟いたのはノエンだったのか、それともリュートだったのか、確かめる前にルルは後ろへと倒れた。