重く引きずるような音が辺りに一瞬だけ響いた。

人々の視線の先には、地面に転がった斧。

「……はぁ……はぁ」

放り投げた体勢のまま、ルルは肩で息をしていた。

「何の真似だ?!ルル!!」

団長の怒鳴り声が、静かな会場に響き渡る。

「……」

ルルは姿勢を戻すと、俯いて肩を震わせていた。

「ふっ……ふふふ!」

「な、何がおかしい?」

含み笑いをするルルを、団長は気味の悪いものを見るような目で見ていた。

観客達もルルの様子を、息を飲んで見ている。

「あははは!………………出来るわけがない」

大きな声で笑ったかと思えば、ポツリと小さく呟く。

「?」

意味が分からないと、訝しげな視線を送る団長に、ルルはキッと睨み返した。

「出来るわけがないじゃない!私がラッドを面倒見てきたのは、ラッドを家族のように思っていたから。私が得られなかった家族の愛情を、せめてラッドには与えたかったからよ!」

自分が欲しかった親の愛。

父も母も、記憶の隅に掠れてしまいそうなほど小さい頃には、もしかしたら愛してくれた時があったかもしれない。

けれども、はっきりと覚えている記憶の中の自分は、いつも両親の愛情を求めて泣いていた。

二人に好かれる子供になろうと、「良い子」になろうと必死だった。

それでも、結局得ることは出来なかったが。

だからこそ、ルルは一欠片でも良いから、ラッドに与えたかった。

受け取るだけの愛もあるだろう。けれども、ルルは与える愛を選んだ。

血の繋がった家族でも、恋人でも、ましてや人間でもないこの幻獣に。

「……もし私がラッドを殺してしまったら、私は本当に『私』を失ってしまう」

片耳を失った時、自分はもう自分では無くなったような気がした。

けれども、それは間違いだ。

どんな姿をしていようとも、ルルの中身が変わるわけではないのだから。

大切にしてきたものを、自分の手で壊してしまったその時、ルルはルルで無くなってしまうと、ラッドを前にして初めて気付いた。

「ラッドを殺すくらいなら、いっそラッドに食べられて死ぬことを選ぶわ!」

持っていた鞭を床へと叩き付けると、鞭はバチバチと音をたてる。

すると、ラッドの首輪が外れた。